次期学習指導要領案についてのパブリックコメント

I 総則について
① 従来、高等学校における歴史教育は、「暗記科目」という受け止め方が強かったのに対して、「主体的・対話的で深い学び」への転換の重要性を総則で明記した点は評価できますが、これを実現するには、現職教員の研修の充実や大学の教員養成課程のカリキュラム改革なしには不可能であると考えます。
② 今回、初めて「教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上」をはかるため、「カリキュラム・マネジメント」が導入されましたが、教育の向上はなによりも個々の教員や教員団の自主的な努力を中心に進められるべきであり、カリキュラム・マネジメントが個々の教員や教員団の自主性や意欲を阻害しないものとなるような工夫が必要と考えます。
③ 教育の目標として、「我が国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図る」こととともに、「他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献」することが掲げられていますが、グローバル化時代の教育ではこの二目標のバランスをとることが極めて重要であり、歴史教育ではとくに自国中心になりがちであるため、他国の主張にも配慮し、生徒が「多面的、多角的」に学べる工夫をはかるべきと考えます。

II 歴史総合について
① 我が国の歴史教育では初めて「世界とその中の日本を広く相互的な視野」から学ぶ科目が必履修科目として設定されたことは大変意義深いことと考えます。ただ2単位という時間的制約から18世紀以降の「近現代史」に限定し、しかも、「答申」の別添3-8では明示されていた「結び付く日本と世界」の部分で「近代化の前の各地域の状況について」ふれると指摘されていたものが、発表された次期学習指導要領案ではなくなっている点に大きな疑問を感じます。何故なら、近現代社会の歴史的意義は、前近代社会における身分制などとの対比によって初めて十分に理解されるものと考えるためです。それ故、「答申」に書かれていたような前近代部分そのものを詳しく教える従来型の授業に戻らないように注意しながら、前近代部分を復活させることを強く希望します。
② 高等学校における歴史教育では、世界史と日本史の担当者が別になっているのが一般的であり、「歴史総合」のような世界史と日本史の統合科目の教育を無理なく進めるには、現職教員の研修の充実や教職課程カリキュラムの改革が不可欠であると考えます。
③ 「主体的・対話的な深い学び」を重視する観点から知識と技能のバランスに留意したり、現代的諸課題との関連を生徒に考えさせる工夫をしている点は評価できますが、近現代史をなぜ「近代化」・「国際秩序の変化と大衆化」・「グローバル化」という大単元を中心に構成したのかの説明がない上、各大単元の説明でも、「答申」の別添3-8では書かれていた「欧米等特定の地域の動きやそれらの動きが歴史に与える影響のみに着目することがないよう留意する必要がある」との指摘が十分活かされていない点の改善が必要と考えます。

Ⅲ 世界史探究について
① 歴史的特質を持った諸地域が交流・再編、結合・変容をへて地球世界を形成していくという従来の世界史Bを踏襲した内容構成ですが、やがて地球世界を構成していく諸地域の学習において(内容B-(3))、アフリカ、南北アメリカ、オセアニアが欠落しています。通時的に地球世界の形成を学習し、その課題を探究するならば、世界史学習の始めから地球全体を視野に入れて地域を区分すべきではないでしょうか。今回の科目の改変で、生徒が世界の前近代史を学習する機会は、小・中・高の必修科目からは大きく削減されることになりました。なればこそ、世界史探究においては、特定の地域が文化の伝播や支配の対象となってはじめて学習対象となるようなことがないように、配慮すべきと考えます。
② 「時期や年代,推移,比較,相互の関連や現代世界とのつながりなどに着目」、「背景や原因,結果や影響,事象相互の関連,諸地域相互のつながりなどに着目」のように、歴史系の科目における探究の見方・考え方を提示していることの意義は評価できます。しかし、「問いを表現する」活動が、内容B・C・Dのように、その時代と世界の全体を俯瞰するような考察に偏っており、ただでさえイメージしづらい異文化を学習する生徒にとっては、自らの問題として取り組むことが難しいでしょう。むしろ、内容A「世界史へのまなざし」のように、生徒自身の歴史へ問いかけ方によって歴史の見え方・描き方も変わってくる、というような、歴史を見る「私」の位置について考える―歴史総合で学習した歴史の学び方のひとつのはずです―ことをより重視すべきではないでしょうか。そのためには、生徒が生活する地域と日本や東アジアや世界との結びつきを考察したり、指導要領の内容の(時期)区分とは異なる時期区分で「問いを表現する」機会を、内容の取り扱いにおいて求めてもいいと考えます。
③ 今回の学習指導要領の改訂による現行からの変化は、小・中・高の必修科目において(これまで必修世界史が担っていた)世界の諸地域の前近代史を学習する機会が大きく削減されることです。近現代史の重視や日本と世界との関係を意識する改訂の趣旨は理解しますが、とはいえ、世界の諸地域の現在を歴史的経緯から理解することは、「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力」の育成にとっても重要なはずです。改訂で生じる「弱点」を解消するために、あたらしい科目構成でどう配慮すべきなのか、改訂を行った側の見解を示すべきと考えます。

IV 日本史探究について
① 今までの日本史B(4単位)に代わり、「世界の歴史と関連付け」と「思考力、判断力、表現力等を身に付ける」ことを目指す日本史探究(3単位)が設定されました。今までの日本史Bもこの2点は重要とされましたが、今回はさらに踏み込んだ内容であり、その点では評価できます。ただし、授業時間が1単位(35時間減)にもかかわらず、分量がほとんど減少しておらず、近現代史はおろか近世史の途中で1年間の授業が終了してします恐れがあります。たとえば、D(3)のアでは「次のような知識を身に付けること」とあり、たくさんの用語が並んでいます。これらをすべて授業で行うのは分量過多となります。中学校までの既習知識を利用したテーマを選択することも考えられます。これらを実行するために単位数の維持を望みたいところですが、それがかなわないのであれば、用語や内容の精選を行う必要があります。
② 小学校の歴史、中学校の歴史的分野、高等学校の歴史総合において、児童・生徒は程度の差はあれ日本の歴史を学んでおり、4回目の日本史学習となる日本史探究では従来の通史的授業方法と別に主題学習の幅を広げることが可能です。たとえば、全時代を通じての学習、たとえば女性の地位の変遷、教育の変遷、租税の変遷、農具の変遷などの学習をすることも考えられます。今回の学習指導要領案にも「時代を通観する問いが表現できるよう指導を工夫すること」、「多面的・多角的に考察」し「仮説を表現」することが強調されています。その時間を確保するためにも既習の通史部分については、内容や用語の精選さらには授業テーマの選択を認めることが不可欠と考えます。
③ 現行指導要領と比較して「変化」「変容」「転換」「画期」という用語が多く使われ、時代の変化に着目していこうとする考え方には賛成です。そのためにも全時代を通観するのに有効な概念用語の習得はとても大切な鍵となります。中央教育審議会の答申でも「概念等に関わる知識の習得」(別添3-6および3-10)が大事であると読み取れます。概念用語について指導要領でも踏み込むとともに、その時間を確保するためにも用語や内容の精選が必須です。
④ 歴史系科目の単位減でもっとも影響を受けるのは世界史です。D(4)の「②世界の中の日本」を「身に付ける」とあることから、世界と日本との関連に時間を割き、生徒がグローバル化に対応するためにも必要な世界史の素養を補うべきと考えます。よって日本史探究でもグローバルヒストリーの成果を活用して、世界との関連を意識した学習に多くの時間を割くべきだと考えます。

V 用語の整理について
① 「答申」では「高等学校地理歴史科の歴史系科目では、教材で扱われる用語が膨大になっていることが指摘されていることから、歴史用語について、研究者と教員の対話を通じ、「社会的事象の歴史的な見方・考え方」等も踏まえ、地理歴史科の科目のねらいを実現するために必要な概念等に関する知識を明確にするなどして整理する」と指摘されていましたが、次期学習指導要領案では「用語の整理」に関する記述はなくなっています。同じく用語が膨大になっているとされた「生物」では用語数の限定が明示されたことにくらべ極めてアンバランスであり、用語の検討を深めることを求める指示の挿入を強く希望します。
② 従来の歴史教育が、用語の「暗記」中心になり、古代から始めた授業が現代まで到達しないで終わっていた最大の原因が教科書に収録された用語の過剰にあることは明らかであり、歴史教育において「主体的・対話的な深い学び」を実現するためには用語の精選が不可欠であり、その点に関する指摘の挿入を強く希望します。

*意見公募要領に従い、上記のⅠは分類番号③に、Ⅱ~Ⅴは⑤として提出しました。